次期ギャローデット大学学長選出を巡る騒動

5/5のワシントンポスト(米国)にギャローデット大学学長選出についての記事が載っていました。何とも興味深い事態なので注目しています。
Gallaudet's Next President Won't Bow Out

これに関して、とんさん(ろう者で日本人で・・・)が分かりやすい要約をポストして下さったので、引用します。

「キング・ジョーダン学長の後任、次期学長に指名されたジェーン・K・ファナンデスが文化的にろうでないことを理由に今回の理事会の決定に学生(多くの卒業生も参加して)が反対運動を展開している。ファナンデスはインテ出身者で手話は23歳から始めた。彼女が学長になることで、メインストリームや人工内耳装着者の増加の著しい現在、アメリカ手話とろう者のアイデンティティ喪失をおそれているろう者もいる。一方、彼女を「大学改革の先進者」として支持する一部の学生もいる。ファナンデスは「100%の支持は得られないかもしれないが時間がたち事態が進展すれば、さらに支持を得られると信じている」と述べている。」

これに関して、とんさん(ろう者で日本人で・・・)、guaancさん(海外手話の世界へ)、うにさん(壊れる前に)が、それぞれ以下のようなコメントを寄せていました。
http://deaf.cocolog-nifty.com/culture/2006/05/true_second_dea_c15f.html

1988年の"Deaf President Now!"運動が「聞こえる人から聞こえない人を学長に」という運動だとしたら、2006年の"Deaf President Now!"はSecond(2回目)でなく、「聞こえない人から文化的にろうである人を学長に」というTrue(本当の) "Deaf President Now!"運動なのかもしれない。

http://blogs.yahoo.co.jp/guaanc/33550026.html

聾者でもあるフェルナンデスの選出に反対する理由として、彼女が学生たちの要求とニーズに十分注意を向けていないからだとのこと(ワシントンポスト紙記事より)。

壊れる前に…: ギャローデット大学の闘い

私も、いろいろな意味で、ギャローデット大学の状況が私たちの社会の縮図であるように思います。多くの大学で運営が構成員の手から少数の「経営者」たちの手に渡りつつあること。アメリカのろう者の「帰属意識」を培うものがわずか20年たらずの間に大きく変わったように、私たち一人ひとりのアイデンティティが古い伝統や静的な文化によって規定されなくなりつつある(のにも関わらず、権力者たちが相も変わらず時代遅れのナショナリズムを人々に押しつけようとする)こと、等々。

私は、以下の文に注目しています。

The opposition to Fernandes is complex and symbolic of many of the issues simmering as deaf culture changes, pushed along by science and technology and demographic shifts.
Fernandesへの反対は、科学技術の進歩と移民に影響されてきたDeaf文化の混沌とした多くの問題が顕著化した複雑なものである。(べぇぇ訳)

私もうにさんとほぼ同じ考えです。

今回の騒動は、前回とは違った背景の元で起こったものであり、前回のようなDeaf自身が主体性を持って大学を運営していく要求から、Deaf固有の現象ではなく、社会全体の影響を受けた要求へと変遷してきたように感じました。このような基本的人権に限って言えば、アメリカにおけるDeaf社会が成熟期に差し掛かってきたといえるのかもしれません。

ただ、権限を集中させる時代遅れの仕組みは、改善していく必要があるでしょう。そのための、運動なのだと思いました。どうか、この運動が成果を生み出すものでありますように。